恐るべし、中卒経営者の知恵 火葬炉で全国シェアが何と60% 富士建設工業 鳴海徳直会長(73才)
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※記事中の会社名・団体名・所属・役職等は取材当時のものです。
平成7年2月1日号
大西リポート012
 

恐るべし、中卒経営者の知恵


「火葬炉で全国シェアが何と60%」
富士建設工業 鳴海徳直会長(73才)

大成長産業

 世の中になくてならない仕事なのに、人から忌み嫌われる職業が存在する。例えば一軒一軒の家庭を回るし尿処理業。ありゃ臭い。廃品回収業、屠殺業、清掃業も嫌われる。欧米ではこんな仕事を第三国人にやらせてきた。日本でもかつては朝鮮人や部落民にさせてきた。そんな人を賤民といってさげすんだ。火葬場に関係する人々もその一種だろう。火葬場で働く人をかつては 「オンボ」とか 「オ二」といって人は差別してきた。何しろ死体を扱うのだから気味悪い。それに猛烈な悪臭と黒煙を周囲にまき散らす。嫌われるのも道理だ。だが、最近の火葬場は煙もなければ臭くもない。たいへんきれいなのである。驚くほどの変わりようだ。
 原因は遺体を焼く火葬炉に革命が起きてきたのだ。立て役者は新潟市に本社をおく富士建設工業の鳴海徳直会長(73才)。この会社、まさに知る人ぞ知る。全国一六社の火葬炉メーカーの中でシェア六〇%で断トツの首位。社員55人ながら売上24億円、経常利益3億円の優良会社なのだ。
 しかもだ。日本の死亡者は今82万人だが今後、毎年増えて20年後には160万人になる。葬式業は将来を約束された大成長産業なのである。

人は皆、我が師

 鳴海さんが革命をもたらした火葬炉はどんなものなのか?「なあに。原理は簡単なんですよ。ホラ、私がもっているたばこの煙にライターの火をあてると煙が消えるでしょう」といって筆者の目の前でやってみせた。間違いなく煙がスッと消えてしまう。

 死体を一度焼いても完全に燃えきらない。燃えきらない煙の中に悪臭の八要素が入っているので、もう一度焼く。「つまり二度焼きで無臭無煙の火葬炉が完成したのです」。昭和四八年のことだ。口でいうのは簡単だが、この無臭無煙の火葬炉を作るため、鳴海さんは商売を始めた三〇年前に約三年間、全国さらには海外の火葬場を尋ね歩いた。「私は中学出身なので学がない。だから人から教えてもらったんです。火葬場の人が何を困っているかって。一軒、一軒まわりました。足を棒にして」。 火葬場の人は屈折した人が多く、なかなか胸襟を開かないものだが「人は皆、我が師」を人生哲学とする鳴海さんの人柄にひかれてポツリポツリと語ってくれたという。「なくなった父が私によく言ったんです。人の困っていることを仕事にすりゃ、食いっぱぐれがないって」。無臭無煙火葬炉に関して鳴海さんが出願したパテントは約百件。登録が四〇件にもなる。

賤民が聖職者へ

 鳴海さんは今年73才。一年前に社長を実兄の子息、鳴海武徳氏に譲り、会長に退いた。声は大きく張りがあるが、話はあっち飛び、こっち飛び、一貫しないので初対面の人は理解しにくい。そして中卒であることを何度も口にする。この大西リポートでも中卒で大活躍している経営者を何度も取り上げた。アーテックスズキの鈴木社長は戦闘意欲を表に出し「オレには恐いものなし」といって成功している。逆に鳴海氏は「学がないので教えて欲しい」と頭を下げノウハウを吸収した。富士建設が日本一になった理由は「人は皆、我が師」を実践したことだろう。見事なほどの中卒社長の開き直りである。
 鳴海さんは今、火葬炉の本を書いている。ひとつの学問にしたいそうだ。科学技術庁長官賞などの賞も多い。まさに野に咲いた大学者といえる。「私もいずれ死ぬ時がくるが死者は何も気味悪いものではない。仏さまなんです。仏さまだからきれいな場所で焼きたいのです。だからこの職業を私は聖職と思っています」と一段と声を張り上げた。ウーン。聖職……。賤民が聖職者に変わるのだから、モノは考えようだ。

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